思いついたどうでもいいはなし

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昔々、ある村に、ひとりの少女がいました。
少女は弱気な性格で、いつも俯いてばかりいるような子でした。

少女には両親と兄がいました。
父は経営していた農家の心労や、様々な苦労の末、若くして他界。
兄は伴侶を連れて家を去っていきました。
残されたのは、身体が不自由な母と、少女だけでした。

近隣の住人は、そんな少女に言います。

「大変だろうけど、頑張ってね」

 何度も繰り返し、少女の耳に届きます。

「君がお母さんを支えてあげてね」

 少女にとって、それらの言葉は、主体性のない自分の道を定める言葉になり得ました。
 自分は、恩を返すためにも頑張らなくてはならないのだと。
 その生き方は、俯き続けていた少女にとって、明確で、綺麗なものだったのです。
 故に、少女は憧れました。
 自分にも、そんな綺麗な生き方ができるのかと。
 そして少女は母に言いました。

 だいじょうぶだよ、おかあさん。

 そう言って、少女は母に笑いかけました。

 
 それからの生活は、少女にとって過酷なものとなりました。
 ずっと人の後ろに隠れていた少女にとっては、何もかもが厳しいことばかりだったのです。
 少女は母と協力した生活を続けていましたが、なかなか上手くいきませんでした。
 母は夫を失い、息子もいなくなり、それに加えて自らの身体の不自由さを嘆き、悲しみました。
 そして、それらの鬱憤は、少女へと向かってしまったのです。
 しかし、その気持ちを察している少女は、それらを受け止め、何度も泣きながら耐えました。
 それでも、少女の生活は続きます。
 
 あるときは、人に騙されました。
 泣いている少女を、人はさらに騙しました。
 心労からか、倒れて臥せてしまうときもありました。
 そして少女も、人を騙しました。
 自分のために、人を見捨てることもありました。

 少女が藁を抱えて運んでいたとき、同年代の少年たちが立ち寄ったことがありました。
 少年たちは言います。

「一緒に遊ぼうよ」

 少女はいつも通り、答えます。

 ありがとう。また今度ね。

 そう言って手を振り、少年たちと別れました。
 少女は、彼らを羨ましいと思いませんでした。
 平民が王族の生活を想像できないのと同じです。 
 あまりにも違いすぎて、羨望の気持ちすらわかなかったのです。
 世間知らずの少女には、彼らがどんな生活をしているのかさえ、わかりませんでした。
 
 そんな生活が数年続いた後、少女の母に恋仲となる人が見つかりました。
 少女は母の幸せを願い、大いに喜びました。
 仲のいい二人を見て、少女は嬉しいという気持ちと同時に、どこか寂しさを感じていました。






 月日は流れ、母の再婚相手の協力もあってか、生活はとても安定しました。
 そんなある日、少女は母に貰った休日を使い、趣味であった本を片手に外へ出かけました。天気がよかったので、景色のいい場所で読書をしようと思ったのです。
 本来ならば街へ出かけてみるものですが、少女は「遊び方」を知りませんでした。友達もいなかったのです。
 片手に持った古ぼけた本が、少女にとって唯一の友人だったのです。
 もちろん労働賃金としてのお金は母から受け取っていましたが、少女はほとんど使うことなく貯金していました。使い方も、わかっていませんでした。

 そして少女が本を見ながら休んでいるときでした。
 少女の視界に、影が映りました。
 不思議に思った少女が見上げると、そこには一人の青年が立っていました。
 落ち着きのある少しだけ長い髪に、元気そうな笑顔が印象的で、何より目立ったのは服装でした。整えられた格好は、明らかに平民ではありませんでした。
 驚く少女に、青年は声をかけました。

「こんなところで何をしているの?」

 問われた少女は、びっくりしてそれどころではありません。
 話す異性は年配の方々ばかりだったので、少女はとても動揺してしまったのです。
 少女は焦るかのように、本を青年に見せつけました。

「本を読んでいるのかい?」
 
 少女は何度も頷きました。
 青年はその反応に、少し面白そうに笑いました。

「その本、ぼくも見たことがあるよ。カンベリー物語だよね。小話がたくさんある作品だ」

 少女は話題を振られたことに戸惑いつつも、恐る恐る応えます。
 こういった会話が久々だった少女にとって、それはとても怖く、同時に、どこが胸の弾む出来事だったのです。

 少女は青年とどれほど話をしていたのでしょうか。
 あたりはもう薄暗く、夕暮れ時となっていました。

「お話ありがとう。ぼくはあの街に住んでいるんだ。よかったらまた話そう」

 そう言って、青年は帰っていきました。
 少女は、青年の姿が見えなくなるまで、その背中を見つめていました。

 その日から、少女は青年と会えるのを楽しみに、週末になるとその丘へ行くのが習慣になりました。
 どちらが約束するまでもなく、その場所で他愛ない話をするようになったのです。
 そしてある日、青年が言いました。

「一緒に行ってほしいところがあるんだ。五日後の朝、あの道の通りで待っていてくれないだろうか」

 少女はとても困りました。
 なぜなら五日後は家の仕事があります。
 ですが、少女は青年と少しでも一緒にいたいと願っていました。
 返事に迷ったものの、少女は強く頷きました。

「ありがとう。少し遠いから、早めに迎えに行くよ」

 そう言われた日の晩、少女は母にお願いしました。
 急なお願いでごめんなさい。五日後におやすみをください。お願いします。
 母は驚きました。
 こんなお願いはこれまでになかったからです。
 きっと何か意味があるに違いないと思った母は、何も言わずに、少女に休みを与えました。






 五日後の朝、少女は本を片手に道端で青年を待っていました。
 少女は、そわそわと辺りを見まわし、落ち着きない様子で待ち続けました。
 すると、道の向こうから馬に乗った人が見えてきました。
 少女はまさか、と思いつつその人物をじっと見つめました。
 そして、その馬に跨った人物は、少女の前まで来るとぴたりと止まり、声をかけました。
 そう、その人物こそ、少女が待っていた青年だったのです。

「待たせてしまったね。さあ、一緒に行こう」

 そう言って、少女へ手を差し伸べました。
 このときの光景は、少女が生涯忘れられないものとなりました。


 青年と共に行く先は、街の中心部でした。
 少女はとても驚きました。
 たくさんの人たち、たくさんのお店、何もかも見たことがないものばかりで、少女は少し眩暈がしました。
 
「ここだ。着いたよ」

 青年が連れてきてくれた場所。それは大きな本屋でした。
 一生かかっても読み切れないのではないかと思えるほどの、たくさんの本が少女の目の前に鎮座していました。
 そんなものを見たことがなかった少女は、ただひたすら呆然としていました。
 青年はそんな少女の背中を優しく押しました。

「大丈夫。ぼくの行きつけのお店さ。紹介するよ」

 そう言われ、少女は目をぱちくりとさせました。


 とあるお店で、少女は紅茶を飲んでいました。
 目の前では、青年が様になる姿で紅茶を口に運んでいます。
 少女にとって、それはまるで夢のような光景で、現実離れしたものでした。
 手にある紅茶を見つめ、そう思ったのです。
 そんな少女の耳に、届きました。

「なにあの子、場違いね」

 その言葉は、少女の胸に刺さりました。
 身体が、びくりと動いてしまいました。
 少女は認識しました。
 自分の容姿を。
 周りの女性たちの煌びやかな姿を。
 己を恥じた少女は、顔を俯かせました。

「気にしなくていい。戯言だ」

 そう言った青年の顔は、真剣そのものでした。
 しかし、少女の心は晴れません。
 それも当然です。少女は自覚したのです。
 
 目の前の青年は、少女にとってとても魅力的な人でした。
 それは、きっと自分以外の女性もそう思っているに違いありません。
 それに比べて自分は、と少女は思ったのです。
 精一杯見繕ったつもりでも、それは自分の限界。
 この街では、薄汚れた、場違いな、見た目だったのです。

 少女は、青年に謝りました。
 ごめんなさいと。
 あなたに恥をかかせてしまったと。

「そんなことはないさ」

 そう言われて、少女は泣きそうになってしまいました。
 悲しくて、悔しくて、情けなくて、行き場のない感情が、目から零れそうになったのです。
 きっと、他にもっと素敵で、綺麗な女性と一緒にいる方が、青年には似合っているのだと。

「本当にそう思うかい?」

 少女は、ただ俯きました。
 そんな少女に、青年は言葉を続けました。

「ぼくは、もし君が他の男とこんな風にすごしていたら、嫌だな」

 そう言って、青年は少し顔を赤くしてそっぽを向いてしまいました。
 そして、そう言われた少女は、口を開けて、青年を見つめました。信じられないと。
 冗談だ。わたしをかばってくれているだけなのだと。
 少女は慌て、同じように顔を赤くし、また俯いてしまいました。
 でも少しだけ、嬉しそうに笑いました。



 それからというもの、少女は青年に会うために何度もあの丘へと向かいました。
 青年は、何度も少女を街へと誘い、様々な場所へ連れて行きました。
 そして同時に、少女は青年の力を借りて、勉強をしました。
 読み書き、計算、少しずつではありましたが、ゆっくりゆっくり、青年は少女に教えました。

 そんな日々が、一年ほど続きました。






 少女は、お店に並ぶ美しい花を見ていました。
 そしてそんな少女を見つめる青年の口から、自然と言葉が零れました。

「綺麗だね」

 それはもちろん、色とりどりの花が、というわけではありませんでした。
 この一年で、様々な情報や、作法、知識を身につけた少女は、以前とは見違えるほどに成長しました。
 そう、少女はもう『少女』ではなく、立派な大人の女性として、成長していたのです。
 そしてそれは、容姿だけという意味ではありません。心の問題でもありました。

 青年と同年であった彼女は、青年の出会った時点で『少女』と呼べるほど幼くはありませんでした。
 しかし、中身は違いました。
 世間を知らず、ただ目の前の仕事をこなし、人と関わらない日々は、彼女の心を成長させず、幼いままにしてしまっていたのです。
 そんな彼女を成長させたのが、青年との日々でした。
 彼女は、本当によく笑うようになりました。
 青年はそれがとても嬉しく、そして彼女の力になれたことが誇りでした。
 
 しかしその裏腹に、彼女の母はあまりその成長を快く思いませんでした。
 そんな都合のいい話があるのは怪しい、騙されているのではないか、その男は何者だ。
 そういった気持ちからか、青年にも、彼女にも冷たく当たることが多々ありました。

 そんなある日、青年は彼女に自分のことを打ち明けました。
 自分は元々王都で暮らしており、与えられていた用事が済んだので帰らなくてはならなくなったと。
 そして、勝手ながら一緒に来てくれないかと彼女に申し出たのです。
 彼女は迷いました。
 好きな相手からの言葉です。嬉しくないはずはありませんでした。
 しかし、彼女には家族がいます。
 自分があそこから居なくなれば、きっと母も、再婚相手も困るであろうことはわかっていました。
 青年にはある程度金銭の余裕はありましたが、それでも限界がありました。そのような権限も、青年にはなかったのです。

 こうして、青年は元の王都へと戻りました。
 二人はとても悲しみましたが、それでも仲違いすることはありませんでした。
 週に一回の手紙でのやり取りと、数ヶ月に一度、街で会って話せることが、二人にとってのかけがえのないものとなりました。

 しかし、それによって寂しさが完全に埋まるわけではありません。
 ときには不安になることもあります。苦しいこともあります。愚痴を零してしまいたい出来事もありました。
 それでも諦めない二人は、そういった生活を長い間続けていったのです。

 そんなある日、彼女が洗濯物を干していると、道端で止まった馬車から一人の男性が降りてきました。

「やあ久しぶり!」

 なんと、彼女にとって最愛の人物である青年でした。
 青年はいつものように笑いかけます。

「随分と待たせてしまったね」

 青年は馬車の荷物を手で叩きつつ、そう言いました。
 わけがわからない彼女は、青年に問いただしました。 
 
「引っ越してきたんだ。すぐそこの空家にね」

 彼女は本当に驚きました。
 家の方はどうなったのか。そもそもご両親は。お金は。大切な人もいただろう。
 慌てる彼女に、青年は笑いかけて言いました。

「君がご両親を大切に思っているのは知ってる。だから、ぼくの方から来てみたんだ」

 彼女は、そうまでして自分の下へ来てくれる気持ちをとても嬉しく思いました。
 しかし同時に、とても申し訳ない気持ちになりました。
 青年には地位も、家族も、約束された未来もあったはずでした。
 それらを棒に振ってしまったのは、自分と一緒にいるためだとわかったからです。
 彼女は青年に強く抱きつき、ごめんなさい、と静かに謝りました。

「いいさ。ぼくが選んだことだ」
 
 青年はそう言って、彼女の肩を掴み、続けます。

「もうぼくには何もない。君だけだ。だから、一緒にいよう」

 その言葉は、彼女が最も欲しかった言葉でした。
 だからこそ、彼女は応え、そして誓いました。

 私の全てを、あなたにあげましょう。

 そうして、二人は共に生活できるようになったのです。







 しかし、そんな幸せな思いは、願いは、ただの夢物語でした。







 彼女の家族は、青年に対して冷たい態度をとっていました。
 気に入らないのか、生理的に受け付けないのか、ただ単に嫌いなだけか、何もわかりませんでした。
 元々人手不足であった仕事を青年が手伝い始めてから、彼女の両親は彼に対して仕事を押し付けたり、無理をさせたり、暴言を吐いたり、ときには八つ当たりをしました。
 しかし青年は立場的にも強く言えません。ただ黙って、仕事をこなし、ひたすら耐えていました。
 そしてそんな姿を垣間見た彼女は、本来ならば両親に対して怒るべきであるはずなのに、彼女のこれまでの環境から『怒る』という態度がとれませんでした。
 それに加え、彼女が何か言おうと立ち上がる度に、青年がなだめたのです。

「ぼくは大丈夫さ。すまない。ぼくがもっとしっかりしていればいいのだけれど」

 そう言って笑う青年に、彼女はどうすればいいのか、いつもわからないままでした。
 とはいえみんなで仲良く、そしてあまり波風を立てたくなかった彼女は、たまに言う程度で、強くは言いませんでした。


 そして青年は、彼女の両親にも反論できず、彼女に心配かけまいと踏ん張り、たまに顔を出す彼女の兄から「不自由な母をもっとフォローしてやれ」と押し付けられても、諦めませんでした。

 愛している人のために。

 彼女と共にいるために。

 こんな環境で一人にさせないために。


 そして、そして、そして、青年は壊れました。










 それは、突然でした。
 家の玄関で、青年が倒れていたのです。
 起きてこないことを心配した彼女が、冷たくなった青年を最初に見つけました。

 原因はわかりませんでした。
 突然の病か、過労か、何もわからなかったのです。

 ただ明らかなのは、青年が目を覚ますことは二度とないということだけでした。

 青年の埋葬は、淡々と事務的に進みました。

 彼女は、目の前にある現実が全て信じられませんでした。
 
 ただただ立ち尽くす彼女の目の前を、たくさんの人が通って行きました。

 近所に住む人。街で会ったことのある人。青年とよく話していた子供たち。

 そして、青年に少し似ている老夫婦。
 
 何もかもが、彼女にとって非現実的でした。

 そうして初めて、彼女は気づきました。
 
 自分の失ったものを。その大切さを。日常を。

 他を投げ捨ててでも大切にすべきだった人物を。

 優先すべきものを。失ってはいけなかったものを。

 しかし、もう戻ってきません。
 彼女はもう二度と、青年に名前を呼ばれることも、抱きしめてもらうことも、笑顔を向けてもらうことも、ありません。

 そんな彼女に、母達は言いました。

「残念だったわね」

「彼は元々身体がそんなに強くなかった」

 彼女の中で、何かが砕け散りました。

 自分にはこの二人を責める資格はない。

 悪いのは自分だ。

 対処しなかった、大切にしなかった、放っておいてしまった自分なのだと。

 後悔と憎悪。

 行き場のないその感情は、彼女自身を壊してしまったのでした。

 

 おわり。






エンディングD 「末路」

 
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_(:3 」∠)_

コメント

悲劇は奇麗だよね
こういうの好き~
とくに肉がついてない骨みたいに匂いも悍ましさもクリアにするから

ただななさんなんかあった?こういうの作るときって色々リアルにおわれてる時に作りたくなるから心配~
>まねーさま
ってどなた!?w
名前から特定できない…!
誰だろう…誰だろう…(´・ω・`)うーんうーん…

って、本当によくお気づきですね…
色々あって考えていて、湧いてきたストーリーみたいなものでして…
これはわいにとっての叫びに近い、そんなお話だったのです…

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_(:3 」∠)_
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