小話Ⅱ-③

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 思ったより長い(´・ω・`)









3.









 優一が次の部屋へと行った後、老人はゆっくりと立ち上がり、すぐ横にあった本棚へと手を伸ばした。
 いったいどれほど放置されていたのかわからない本棚は、煤け、痛み、強く押せば崩れてしまうのではないかと思うほどにボロボロだった。
 老人はそこから一冊の本を取り出す。
 そしてゆっくりとページ開き、
「あと少しか」
 そう言って、懐かしむかのような顔で本の中身を見つめる。











「ここは……」
 優一は辺りを見回す。
 扉を進み行き着いた場所、そこはどこかの建物の中のようだった。
 辺りはかなり薄暗い。ちかちかと点灯する電球が不気味だった。
 そして通路から繋がっているであろう部屋や、窓が見えるのだが、それには鉄製の檻が備わっている。その光景はあるものを彷彿とさせた。
「……刑務所? いや病院か?」
 逃さないための構造物。それらは優一の背筋を冷たくした。あまり、長居したい場所ではない。
 だが、ここには老人曰く『困っているもの』がいる。
 何か道標になるようなものがあるに違いないと考えた優一は、周囲に何かないかよく観察しつつ、聞き耳を立ててみる。
 すると、何か音が聞こえた。何かが擦れるような不快音。
 さらに耳を澄ませてみたところ、どうやらこの音は通路の先にある扉の向こう側からのようである。
 優一は周囲に何か道具がないかと見渡してみたもの、役立ちそうなものがないことがわかると、残念そうに舌打ちをした。
 そして扉の前まで進み、さらに耳を澄ませた。
 聞こえてくる音は変わらない。金属が当たるような、不可解な音がしている。
 優一は身構え、ゆっくりと扉を開く。
 そして、その先の光景に、優一はぽかんと口を開いた。
 そこは狭い部屋だ。白い壁に、深緑の床。所々傷んでいるようで、コンクリートには罅が入っており、剥がれたコンクリートや塗料が床に転がっている。
 その部屋の中央に、一人の女性がいた。
 年齢はおそらく20代前半といったところか。かなり小柄な女性である。優一より頭二つ分は低いようだ。
 そして、その女の首には紐のようなものが括りつけられている。天井へと繋がっているようだ。
 その繋がった先には、そのまま女が手に持っている鉄球へと繋がっているようで、どうやらその鉄球が地面に近づくと、女の首が吊り上げられる仕組みとなっていたのである。
 女が持っている鉄球はかなり重たいのか、ふらふらとした危ない手付きで必死に持ち上げていた。限界が近いのもあるのか、既に女の首が吊り上げられるかのようになっており、苦悶の表情を見せていた。手の力と、首の力でぎりぎり保っている状況だ。
「……ぁぐ……」
 女は苦しそうな声を喉から漏らし、目の端から涙を零した。それでも、女は必死に鉄球を持っていた。
 それを見た優一は、ただ無言で、足を縺れさせるような勢いで女の下へ走り寄った。
「おい! 大丈夫か!」
 女が抱えていた鉄の塊を奪うかのように、優一は鉄球を引っ掴んで持ち上げる。
 そこでやっと優一の存在に気づいた女は、不思議な顔をして優一を見つめていた。
 その顔はまるで、その行動が不自然とでも言わんばかりであった。
 目をパチクリとさせ、女は優一を見つめる。
 だが優一はそんなことはお構いなしに、問いただした。
「おい、これはなんだ」
 優一は、怒っていた。
 これはいくらなんでも悪趣味すぎる。
 ご丁寧に女の右足にまで重りの鉄球が付いていた。
「……」
 優一の問いに、女は答えられない。
 その反応に、優一はますます不機嫌さを露わにする。
「またかよ」
 はあ、と溜息をついて、さらに質問をする。
「お前は俺のこと知ってるのか?」
 こくりと、女は頷く。
「ってことは、もちろんじいさんのことも知ってるんだな?」
 肯定。
「んじゃ、あの髪が無駄に長いショタは? 知ってるか?」
 すると、今度は首を傾げた。女の目に疑問符が浮かんでいるかのようにも見える。
「知らないのか……」
 中途半端に情報がこんがらがっている。何もかも疑問だらけだ。
 この女の状況も、悪趣味な空間も、全てが優一の神経を逆なでする。
「まあいい、まずはこれをなんとかしなきゃな」
 そう言って、優一は手元の鉄球を見やった。
 見た目より重たい。これを抱えて立っているのは大変だっただろう。特に目の前にいる小柄な女では、本当にぎりぎり持っていられるかどうかではなかろうか。
 優一は女の首に括られた紐を見つめ、
「それ、なんとか外れないか?」
 そう言うと、なぜか女は少し嫌そうに一歩後ろへ下がった。
「はあ? なんだ? 外したくないのか?」
 優一がそう言うと、女は戸惑うかのように視線を左右に泳がせた。
 ますます訳がわからない。こんな危ないものはさっさと外すべきだというのに、なぜこの女は迷っているのだろうか。理由がさっぱりわからない。
「頼むから外してくれ。俺がちゃんと持ってるからさ」
 鉄球を軽々と持ち上げ、さっさとしろと優一がアピールすると、女は少し怖がるかのように自分の後ろ首へと手を伸ばし紐を解いた。
 優一は紐が完全に解けたことを確認すると、鉄球をゆっくりと床へ下ろす。
「なあ、どこに行けばじいさんのところに行けるかわかるか?」
 その問いに、女はコクリと頷いた。
 そして、部屋の隅にあったらしい扉を指差した。
「あの先か?」
 優一がそう言うと、女は自分の足についていた鉄球を危なっかしく抱える。移動するためだろう。
「おい、危ねえよ。俺が持つ」
 優一が呆れたようにそう言うと、女は慌てたように鉄球を胸の中に大事そうに抱え、激しく首を横に振った。その顔が、懇願するかのような、今にも泣いてしまいそうな表情をしていることに気づき、優一は動揺した。
「……なんだ? どういうことだ?」
 質問に、女は答えない。
 胸に抱えたそれを守るかのように力を込め、顔を俯かせた。
「わかった、わかったよ。それには触らない」
 そう言うと、女は少しホッとしたようだった。
「はあ……なんだってんだ」
 優一はそう言って、もう何度目になるかわからない溜息をついた。




「戻ったか」
 優一が扉を先へと進むと、そこは元の暗い部屋だった。
 後ろを確認すると、やはり女は優一の後ろについてきているようだったのだが、なぜか大事そうに抱えていた鉄球は跡形もなく消えていた。
 優一は不思議そうにそれを眺めつつ、
「ああ、クソみたいな状態だったがな」
「そうか」
 吐き捨てるかのように言った優一を気にした風もなく、老人は答えた。
 その態度に優一は苛立つ。
「そろそろ説明してくれ」
 老人へと詰め寄り、睨みつける。
 優一はもううんざりだった。あまりにもわけのわからないことが多すぎる。理解できないどころか、理由までわからないのだから当然である。
「ふむ、記憶も少し戻ったか」
「……ああ」
 そう、優一は少しだけ記憶を取り戻しつつある。
 まだまだ曖昧なままだが、自分が高校を卒業してすぐ仕事をし始めて、飲食業で働き始めたことは思い出していた。趣味はソシャゲとパチスロ。なんか無駄に堕落しているような嗜好である。ちなみに得意技はパラパラ炒飯。
「ああ、たしかに戻ってる。けど全然わからねえ。この場所も、あの子供もこの女も」
 疲れたかのように言う優一を老人は見つめると、今度は優一がつれてきた女へと視線を移した。
 そして女に何か指示を出すかのような仕草をすると、女はポケットから紙のようなものを取り出した。かなりボロボロな、ノートの切れ端のようだ。
 そして、それを優一へ差し出した。
 優一はそれを無言で受け取ると、紙に書かれているらしい文を読み上げた。
「3652……何の数字だ?」
 その問いに、老人が答える。
「懐かしい数字じゃろう?」
「は? 懐かしい? それって……」
 優一はもう一度紙を見やる。そしてそこに書かれた数字。語呂合わせだろうか。
「いや、これは……」
 思い出せない。だが優一はこの数字を知っている。意味を知っていた。大事な、何かの数字だった気がしたのだ。
 困惑する優一に老人は声をかける。
「先ほどの鍵は持っておるな?」
「ああ、ある」
 優一はそう言って、ポケットから鍵を取り出す。あのショタっ子から受け取ったボロボロの鍵である。
 老人はそれを確認すると、すぐ近くに置いてある箱のようなものを指差した。
「その鍵と数字があれば開くじゃろう」
「箱? あの金庫か」
 優一は指差された箱へと近づいた。
 大きさはさほどない。おそらく30センチぐらいだろうか。そこにはたしかに鍵穴が存在しており、その脇には電卓のようなテンキーが付いている。
 優一はゆっくりと鍵を差し込んでみた。
 ボロボロなので入らないかと思いきや、実際はそんなこともなくするりと中へと入り、差し込んだだけでガチャリと何か音がした。
 そして今度は紙に書かれていた数字を入力する。
 すると、またガチャリという音と共に、蓋が跳ね上がる。どうやら鍵は解除されたらしい。
 優一が蓋を開けてみると、中からはハンカチのようなものと、古びた手紙が出てきた。
「なんだこりゃ?」
 そう言って、優一はその二つを手にとった。
 手紙は色褪せた様子から、かなり古いものであることがわかる。ハンカチは子供向けの小さなもののようだ。某ポケットのモンスターである電気ネズミの刺繍がしてあるようだ。
「おいおい懐かしすぎるだろ。タイムカプセルか何かかこれは」
 それをじっと観察する優一は、手紙に書かれた文字に気がついた。差出人の名前が書かれているようである。
 そこには『ゆういち より』と書かれてあった。
 優一は記憶をたどる。自分はこんなものを過去に書いたことがあっただろうか。
 しかし思い出せない。まだ記憶が全て戻っているわけではない。
 そして、このハンカチはなんだろうか。まさか本当にタイムカプセルなのだろうか。しかしそういうものは大体学校の校庭なんかに埋めるものであり、断じてこんなハイセキュリティな箱に入れておくような代物ではない。
 なんだか、目眩がした。
 何もかもがわからなくて、理解できないものが山積みで、優一は頭痛に見舞われた。
「次が最後じゃな」
 ふらふらとする優一に、老人はそう声をかけた。
「最後か」
「そうじゃ」
 そう言って、老人は自らの足に繋がれた鎖を辿るかのように引っ張っていく。
 すると、石壁であったはずの場所が開き、通路が見えてきた。
 老人は鎖を地面へと下し、優一を見つめた。その表情は、どこか寂しそうだった。
「知りたかったじゃろう」
「何を」
「ここであった全てをな」
 そう言って、老人は本棚を指差した。まるで見てみろと言わんばかりに。
 ふらふらとした足取りで、優一は本棚に近寄って一冊取り出してみる。
 それは、アルバムだった。
 誰の、なんて質問はありえない。
 優一は黙ってページを開いていく。
 そこに写っているのは自分だ。
 ご飯を食べているとき、遊んでいるとき、勉強をしているとき、卒業式、泣いているとき、様々なシーンが撮られている。
 だが、違和感があった。
「俺以外、写ってないんだな……」
 他の本を取り出して確認するも、やはり同様であった。
 写真に写る優一は、ほとんど一人でいた。
 時折、優一が誰かと写っている写真があれば、なぜかその人物の顔部分は真っ黒に変色させられている。
 気持ちが悪い。
 優一は、目眩や不快感、頭痛で今にも倒れてしまいそうだった。
 老人が言う。

「犬に襲われた少年」

 壁際に座る少年は、優一を見つめている。

「見に覚えのある厨房、一人だけのアルバム、鍵、番号、厳重な金庫、手紙、ハンカチ」

 そして、と前置きし、

「お前の傍を離れない者」

 朦朧とした優一を、心配そうな顔で見つめる女がいた。

「この先に行けば、全てわかるじゃろうな」
 
 そう語り、老人は道を示した。
 それを見た優一は、頼りない足取りのまま、老人の示す道へと進む。
 狭い石造りの通路。明かりは点々とある蝋燭のみ。
 暗い部屋を抜けて通路へと進むと、なぜかまた優一は少しだけ気分が良くなった。

 その理由は、まだわからない。






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