小話Ⅱ-②

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 続き(´・ω・`)思ったよりなんか長いな…












2.




 優一が扉の向こうへと消えていったのを、老人は静かに見送った。
 そして同時に、息を吐く。
「優一なら大丈夫じゃろて」
 そう言って、カカッと笑う。
「わしはずっと見ておった。じゃからわかる。信じておれ」
 そう付け加え、老人は目の前の何かを見る。
 そこには、まだ、何もない。













 優一がゆっくりと扉を開けた先は真っ白な光に包まれており、何があるのか視認できなかったのだが、ゆっくりと歩を進めて背後の扉が音を立てて閉まったとき、優一の視界に何かが映り始めた。
 景色だけではない。音もする。何か、機械的な音。どこかで聞いた気がした。
「ここは……」
 慣れてきた瞳に映った光景は、とある田舎の道沿いとでもいうべきか、アルファルトの国道が一本だけ通っていて、優一はその脇の歩道に立っていた。
 周囲にはあまり建物がなく、山や緑が多く見えることから、けっこう田舎であることが見て取れた。
 しかし優一にとっては不可解だった。さきほどまで地下かと思えるような場所から一変、日差しを感じる田舎の道のど真ん中である。全くもって理解できなかった。
 いったいどういう仕組みであったのか不思議に感じた優一は振り返って扉を確認しようとするも、なぜかそこにはもう扉らしきものはなにもなかった。そこにはただ歩道が続いているだけだったのである。
 目を見開き呆然とする優一をまるで責め立てるように、道路を車が横切っていく。先ほどの機械音は、通る車が理由だったのだ。
 だが優一は見てしまった。
 その運転席には、そこには、人がいなかったのだ。
 しかしその代わりというべきか、なぜか柴犬のような犬が両手をハンドルに押し付けるかのように操作しているように見えた。
「え」
 冗談だろ、と言わんばかりに優一の手が持ち上がる。
 そして、通り過ぎた車の後を追うかのように次々と車が優一の目の前を横切っていく。
 だがしかし、やはりその運転席には人がいない。犬がいる。どうやっているのかはわからないが、上手にハンドルを操作して車を走らせているらしかった。
「これは夢だな。さすがにありえねえって。これはねーよ」
 そう言って優一は頭を抱える。
 自分の頭はおかしくなったのだろうか。
 記憶の喪失、わけわからんことを言う老人、暗い部屋、謎の扉、謎のハンドル捌きを見せつけていく犬達。
 あまりにも現実からかけ離れている。頭がパンクしそうだった。
「どうすりゃいいんだよ……ここは、どこなんだ」
 そう言って、頭を抱えたまま優一が蹲りそうになったとき、何やら犬の吠える声が聞こえた。しかも一匹ではない。かなりの数だ。
「今度は何だよ」
 呆れたようにそう言って、優一は音のする先を見やる。どうやらこの歩道の先から聞こえるようだ。フェンスが見えるということは、向こう側で何か起きてるのか。
 気怠そうに優一は歩を進める。聞こえる犬の鳴き声からして、喧嘩か何かをしているような雰囲気である。かなりうるさい。
 そして優一がフェンスに近づき、声のする方を見やると、そこには驚きの光景があった。
 どうやらそこは学校の校庭だったようで、広いグラウンドが優一の視界いっぱいに広がった。
 そしてそこに、たくさんの犬が見えた。大型犬やら小型犬やら、多種多様である。六匹ほど見える。
 それらの中心に、少し長い黒髪の少年がいた。小学4年とかそれぐらいだろうか。かなり小柄である。
 犬達は少年を吠え立てている。さらには足に噛みつこうとしたり、体当たりをして、痛めつけているようだった。
 その光景に優一は瞬時に頭が冷える。
 フェンスに掴みかかり、怒鳴った。
「おい! 何やってんだ!」
 少年は何か気付いたかのようにこちらを見やるが、吠える犬達に怯え、身を守るので精一杯のようである。
 犬は何も気づいていないようで、変わらず少年を吠え立てる。
「くそ」
 優一は近くに入口がないことを確認すると、フェンスをよじ登り、中へと侵入した。
 そして近くに転がっていた木の棒のようなものを手に取り、優一は駆け出す。
「こらああああああああああああ」
 格好のつかない怒声と共に、優一が走り寄る。
 犬達はそんな優一に気付くと、少年から飛び退いた。
 優一が棒を振り回し、犬を追い払うかのように声を荒げる。
「しっしっ! どっか行け!」
 犬は優一を警戒してか、少し離れて警戒をしつつ様子を伺っていた。
 それを確認した優一は、背後に隠した少年を見やる。
 やはりかなり小柄の子供だ。もしかしたら低学年ぐらいかもしれない。やたら髪が中途半端に長いのが気になるところだが、来ているシャツもぼろぼろで、けっこう酷い有様であった。
「大丈夫か?」
 そう優一が問うと、少年は戸惑うかのように目を泳がせた後、こくりと頷いた。
「ならいい、が……」
 そう言って辺りを見回す。まだ犬達は優一の様子を見ていた。
 いったいどうしたものか、と悩む優一の隙を感じたのか、一匹の中型犬が優一に飛びかかった。
「うおっ」
 咄嗟に腕で防ごうとする優一の手を、その中型犬は噛みついた。
 その鋭い牙が皮膚にめり込む、思いがけない痛みに優一は苦悶の表情を浮かべた。
「いってえなおい!」
 噛まれた手を振り、犬を振り払う。そして同時に、優一はその犬の横っ腹に蹴りを叩き込んだ。
 痛みを感じた犬が悲鳴を上げ、逃げ出していく。
 そして優一は棒を振り回し怒鳴った。
「おら! さっさとどっか行かねーと引っ叩くぞ!」
 優一の怒声と、その振り回す道具に怖気づいたのか、犬達は一匹、また一匹と逃げ出していく。
 その様子を、優一は木の棒を構えたまま、見送った。
 全ての犬が走り去っていったのを確認した優一は、はあ、と息を吐いた。
「……危なかった」
 そう言って、噛まれた手を見やる。
 そして、かなり強く噛みつかれたのを考えるとけっこう出血しているかもしれないと考えた優一の思いとは、まるで違った。
 そこには、何の傷もない。
 優一は不思議そうに噛まれた手を摩った。出血もなければ傷もなく、何の痕もない。
 そんな優一の服の裾を、少年が引っ張った。
 それに気づいた優一が、声をかける。
「ああ、大丈夫かお前。怪我はないか?」
 だが、少年は答えない。
「……」
 黙ったまま自分の身体を確認すると、大丈夫、と頷いた。
「そうか。名前は?」
「……」 
 少年は答えない。首を横に振った。
 少し訝しげな顔をした優一が、質問を続ける。
「……お母さんは?」
 少年は首を横に振る。
「なんでここにいた?」
 すると少年は首を傾げる。わからない、と言わんばかりである。
「喋れないのか?」
 こくりと頷く。
「まじかよ」
 面倒なことがまた増えた。というか犬が運転している世界でなんでこんなショタと出会うのか。優一は再び頭を抱えたくなった。老人の言っていた『困っている者』とはおそらくこの少年であろうことだけはわかったが。
 そして優一は質問を再開する。
「なあ、俺のこと知ってるか」
 頷いた。
「え、知ってんの!?」
 少年はコクコクと何度も頷いた。
「それはいつ頃だ?」
 わからない、と首を傾げる。
 優一は意味が分からなかった。老人といい少年といい、なんでここにはまともに会話することの出来る人物がいないのか。コミュ障の楽園か何かなのだろうか。
「んじゃ、あれだ、真っ白な髪と髭伸ばしたじいさんは知ってるか?」
 そう言うと、少年はこくりとまた頷き、優一の服の裾を引っ張った。それはまるで、
「ついてこい、ってか?」
 少年は頷き、ぐいぐいと優一の服を引っ張る。
 優一は溜息をつき、少年のあとへと続く。
 わけのわからない展開に、優一の足取りはとても重かった。


 校内へと案内され、廊下をひたすら進んでいく。
 少年の進行には一切の迷いがない。目指すべき場所を知っているかのようだ。
 いったいどこへ向かっているのかわからない優一は、ただ不思議そうにその背中を見つめ、ついていく。
 そしてしばし歩いたところで、少年がある教室の前で立ち止まる。そこには『視聴覚室』と書いてあった。
「なんか懐かしい響きだな」
 そう言って、優一も歩を止める。
 立ち止まった少年は、優一を見つめて頷いた。まるで「着いた」と言っているかのようだ。
 そんな少年に優一は問いかける。
「この先に何があるんだ?」
「……」
 少年は答えない。ただひたすらに優一を見つめている。
 行くしかない、と思った優一は戸に手をかけ、ゆっくりと横へと戸を滑らせていく。
 何故か向こう側の光景が見えない。こちらに来たときと同じだ。
 ゆっくりと歩を進め、優一はその先へと入っていく。
 そしてまた、背後でぱたりと戸の閉まる音がすると、眩しかった視界が段々と治まっていった。
 そこは、優一が目覚めた暗い部屋だった。帰ってきたのである。
 同時に、野太いが優しさを感じる声が優一の耳に届いた。
「ふむ。戻ったか」
 壁に寄りかかるように座っていた老人が、優一を見やる。
 戻ってこれたことに安堵した優一が、深く息を吐いた。
「なんか色々わかった気がしたよ。ここは現実じゃないんだろ」
「いや、現実じゃよ」
「んなわけあるか」
 優一は吐き捨てるかのように言い、
「扉の向こう側はわけがわからなかったぞ。犬が運転してやがった。いくらなんでもありえねえって。そもそも足届かないじゃねーかよ」
「ほう、それは摩訶不思議な世界だったんじゃな」
 そう言って老人が笑う。
「笑えねえよ。そもそもあの困ってたっていう子供はなんだ? 俺のことも、じいさんのことも知ってたぞ」
「そりゃそうじゃろて。その子はお前を知っておる。わしもその子を知っておるよ」
 そう言って、老人は優一の隣を見やった。
 その視線に気づいた優一がそこを見やると、そこには先ほどのショタっ子がいた。
「お前いたのかよ!? え、あそこは夢の世界じゃねーの!?」
 そうのたまう優一をちらりと少年は見上げ、老人へと視線を移す。
 そして呆れたように老人は鼻で笑い、
「だから言うたじゃろうが。夢ではない」
 そう言うと、老人は少年と目を合わせ、何かを指示した。
 すると少年はズボンのポケットから何かを取り出す。古ぼけた鍵のようだ。ぼろぼろで今にも折れてしまいそうである。
 そして優一へ差し出した。
「俺にくれんのか?」
 受け取り、優一は鍵を見つめる。不思議な形をしている。普通の鍵と違って刺々しく、所々にとても小さな穴が開いているようで、なんだか近代的な形状だ。
 優一は老人を見やる。
「どうすりゃいいんだ? 向こう側の扉の鍵か何かか?」
 すると老人は首を振り、
「違う。それはお前さんにとっての鍵じゃ。それだけでは意味がない」
「他にも何かあるのか? また鍵か?」
「さあの。もう一つは、あちらにあるじゃろうて」
 言って、反対側の扉を指さした。
 またか、と優一はうんざりした。
「今度はなんだよ、猫がいっぱい出てくる世界か何かじゃないだろうな」
「知らんよ、それはお前が決める」
 だめだ。このじいさんは意味不明なことしか言ってくれない。
 参ったように優一が顔に手を当てると、老人がさらに口を開く。
「ほら、さっさと行くがいい」
 とだけ言って少年を見やり、
「だがお前はここで待っておれ。どうせ向こうには行けんからの」
 そう言われた少年はこくりと頷き、老人とは反対側の壁際まで移動すると、そこに座り込んで目を閉じた。
 その様子を見ていた優一が老人に聞く。
「なあ、向こうはどんなところなんだ? また人がいるのか?」
 その質問に、老人はどこか遠い目をして、答えた。
「……そうじゃな。困っておるものがおるよ。どうするからは、行ってから決めるといい」
 それだけ言って、また老人は目を閉じて黙り込んだ。
 優一はまた溜息を付き、今度は反対側の扉へと向かって歩きだす。
 だがその背中を、声が引き止める。
「――――やり直しはきかん」
 その声は、とても低く、言い聞かせるかのようで、優一の足を止めた。
「どういう意味だよ」
「そのままじゃ。人生なんてそんなもんじゃろ? やり直し、リセット、そんな都合のいいものはない」
 だから、と老人は前置きし、
「このまま立ち止まってしまってもいい」
 その言葉に優一は苛立った。なら最初から指示しなくてもよかったではないか。
「ならなんで俺に色々教えるんだ。あんたはどうしたんだよ。何が言いたいんだ」
 その問いに、老人は黙り込む。
「……」
 老人は語らない。
「ちっ……なんだよ」
 そう吐き捨てて、優一は扉へと向かう。
 この暗い部屋は、優一にとって不愉快だった。なぜか気分が悪くなる。さきほどの場所はそんな気持ちにならなかったのに、ここに戻ってくると少々不快な気分になると優一は感じた。
「まあじいさんが悪い。だいたいじいさんが原因だろ」 
 そう独り言を呟き、優一は扉を押し開ける。
 優一の視界は、また強く眩しい光に包まれた。 




 ※まだ続く
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