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小話Ⅰ


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 少し昔話をしよう。
 ある男が、ある女に、恋をしてしまったお話だ。
 それはとても身近なお話で、それでも俺にとっては程遠いようなお話で、だがそれでも、その男は俺の友達だったのだ。




 数年以上前になる。
 当時やっていたネットゲームで、俺はメールのやり取りをするぐらい仲の良いフレンドがいた。
 彼は本当に良い奴だった。
 俺なんて足元に及ばないほど優しい、と本気で評価してしまうぐらい、彼は人を大切にする人だった。痛みの分かる人だった。困っている人がいたら、手を差し伸べてしまう性分を持っていた。
 だからこそ俺は、そんな彼が気に入って、意気投合し、仲良くなっていったのだ。

 そしてある日、彼は俺に相談を持ちかけた。
 それは恋愛話というやつだった。
 実は、彼はあるプレイヤーと一緒にゲームをして段々と仲良くなり、その人のことが好きになってしまったらしいのである。
 もちろん一方的というわけではないようで、けっこう前に一度リアルで会ってデートしたこともあるらしく、そのとき人生初の告白を冷や汗ながら実行した結果、なんと成功したようで、なにやら俺の知らないところでリア充しているらしかった。けしからん奴である。
 
 とはいえそれは朗報だ。まさか俺の知らないところでそんな甘酸っぱい恋愛イベントが起きていただなんて予想すらしていなかったのだけれど、親しい友達に恋人が出来たとなれば、こちらとしても嬉しいばかりである。
 さてさて、そして相談の内容とは、彼女が他県に住んでいるということもあり、その子が住んでいる場所へと引っ越したいというものであった。仕事も転職するらしい。
 というかいきなりすぎる展開というか、焦る気持ちもわかるのだけれども。
 だがやはり彼女が寂しがっているようで、なんだかんだ関係も長いので、彼(仮名として今後は啓太とする)は早く傍に行きたいわけなのであった。
 仕事先の人にも、そんなに好きなら行ってみるのも有りなのではないかと背中を押されたらしい。余計なことを。
 
「僕、本当にその人が大好きでさ」

 そう言う啓太の顔は真剣そのもので、俺としても、やはり応援したくなるものだった。

「いいんじゃないか」

 今まで女のおの字もなかった啓太が、自分の人生を掛けようとするほどの女性である。
 おそらく俺が逆の立場でも同じ気持ちになって、同じことをしようとするだろう。
 幸い啓太は要領も良く、真面目で仕事も出来る有能な人間だ。たぶんなんとかなるだろう。
 それに『好きな人のため』と意気込んだ人の力というのは、なかなか凄いものがある。
 だから、

「俺は応援するぜ」
 
 友人として、背中を押してみることしたのだ。
 そして啓太は意気込むかのように「おう!」と応え、笑った。

 とはいえ引っ越しまでして仕事も変えるとなると大忙しである。てんてこ舞いというやつだ。
 住居の契約やら家族との相談、そして今後の展望だのなんだのと色々と山積みであった。
 だがやはり啓太というべきか、問題を次々と解決し、目標を決め、進んでいった。
 ちなみにいくら大好きなネトゲとはいえ、さすがにこの状態ではまともにIN出来ないかもしれないとのことで、また落ち着いたらログインするよ、と連絡があった。

 これまで共にゲーム内で腐っていたとは思えない熱い展開である。
 なんだか置いていかれたような気がして、少し寂しかったのは秘密だが。

 そんなこんなで啓太は彼女の住む地域へと引っ越し、そこで仕事を始めた。
 そしてもちろん、その彼女は啓太の住む家に行ってご飯を作ったりなど、まるで新婚さんのような生活がスタートしたらしく、なんとも嬉しいような寂しいような。
 だが友人が道を定め、未来へと走り始めたのは、とても喜ばしいことだったのだ。










 そしてその数カ月後、俺のフレンドリストから、啓太の名前が消失した。








 意味がわからなかった。
 最初は、リアルに集中するために消したか、またはサーバー移動をしたのか、はたまた彼女に「集中しろー!」と消されたか。そんな感じのノリだと思っていたのだ。
 だが少し胸騒ぎがした俺は、共通の友人に声をかけてみた。

『こんにちは。突然すみません。啓太って最近ログインしました? 最後に見たのいつ頃ですか?』

 俺の質問に、友人は答える。

『お久しぶりですー……って啓太ですか? いや全然見てませんが』
『そうですか……フレンドリストにいます?』

 嫌な予感がした。

『いないね……やめちゃったんですか、彼』
『いや、俺もそれが知りたくて』
『わたしにもわかりません。ごめんなさいお役に立てなくて』
『いやいやそんなことはありません。ありがとうございました』

 会話が終わり、考える。
 つまり知らないのは俺だけというわけではない。
 メールでの連絡もない。
 つまり、ひっそりと消えたわけだ。
 というかネトゲでキャラクターを消すなんて真似は、基本的に誰もしない。なぜならネトゲでのキャラクターは、プレイヤーが時間と金を注ぎ込んだ、もはやもう一人の自分と言っても違わないほどの大切な存在だからだ。もはや財産と言えるだろう。そんなものを簡単に消すとは思えない。

 そして思い出した。
 そういえば彼女もゲームをしているんだったか。
 名前は、たしかアイリだったか、そんな感じだった。

『あの、啓太と仲の良かったアイリって人はいますか?』

 その言葉、少し遅れて返事が来た。

『ああ、アイリさんですか? いますよ。この前少しクエ行きましたし』

 ますます意味がわからない。
 つまり彼女はいるのに啓太だけが引っ越した? その理由は? というかアイリさんだけはゲームしているのか。わけがわからん。

 さて、ならばアイリさんとやらに聞けばわかるかなーと思い、他の共通フレンドにアイリさんがいるらしい場所を聞いて向かってみたわけなのだが。

 そこで俺は、偶然見かけた。
 他の男性キャラクターと二人っきりで、本来ならば穴場というか、人気のない場所であろうところでまるで寄り添うかのようにいるアイリというキャラクターを。

 それ見て、ますます嫌な予感がした俺は、急いで啓太にメールを送ってみた。
 キャラが消えたのは何故だ。移動したのか。何があったのか。元気にしているのか。

 返事があったのは一週間後。
 そしてそのメールには、

『ごめんたっちゃん、全然うまくいかなかった』

 そう書かれていた。









 とある駅前に、俺は来ていた。
 地元から少々離れた場所。
 そこで、啓太と待ち合わせしていたのだ。
 どうやら色々あって、啓太はアイリさんのいる場所ではなく、実家の方に戻ってきているらしかった。いったい何があったかは、察するに容易い。
 季節的に冬が差し掛かってきているからか、少しだけ肌寒く、身体どころか心まで冷めてしまうかのようで、なんとも言えない気持ちで待っている俺に声がかけられた。

「ごめんごめん、待たせたね。久しぶり」

 その声に顔を上げ、俺は愕然とした。

「おまえ」

 そこには、過去の啓太を知るものなら目を疑ってしまうぐらい、やつれ、疲れ果て、まるで今にも倒れてしまうかのような目をした、啓太がいた。
 ただ真っ直ぐに、明るくて、優しくて、太陽のような人と表現される人が、ここまでの雰囲気を持ってしまうほどに追い込まれるとは、それはいったいどれほどの出来事だったのだろうか。

「啓太―――いや、とりあえず店でも入ろう。なんか、美味しいものでも食べよう」

 そう言って、俺達は近くの店へと歩き出した。
 
 入ったのはただの居酒屋で、季節もあるのか、それとも夕方だからなのか、店内には人がほとんど居なくて、静かなのが印象的だった。
 席について軽く注文を済ませ、少しだけ他愛もない話をした。
 ちゃんとご飯食べてんのか、家族は元気だったか、俺は相変わらず一人でほそぼそと生きてるぜ、この前新しく父が猫を連れて来て世話が大変でさ、なんて、なんだか変な会話だった。
 
 だが違うだろう。
 話したいのはこんなことじゃない。聞きたいのはこんなことじゃないはずだった。
 だから、

「啓太、お前どうしてた」

 そう聞いた俺の言葉に、啓太はビクリと身体を震わせ、俯いた。
 言葉にしようとして、でも口から出なくて、唇を強く結んだその顔が、見ていて辛かった。
 そして思いを決したかのように、瞳を伏せていた啓太は口を開いた。

「―――実は」

 震える唇で、ぽつりぽつりと語り始めた。
 それはまるで怯えているかのようで、悲しそうで、とてもじゃないが、以前の面影はなかった。



 啓太が引っ越してから、本当に色々と大変だったらしい。
 それはもちろんゲームなんてしている暇もなく、そして頼れる人もおらず、ただ自分の惚れた女性のために、一心に、ただひたすら仕事をして、ここで一生を過ごす覚悟を持って様々な人と仲良くしようと気を回し、毎日クタクタだったそうだ。
 それも当然だ。
 なれない土地、見知らぬ人々、不慣れな仕事、人間関係、それがどれほど大変なことなのか、想像するのはとても容易いことである。
 だがそれでも、と頑張れたのはやはり好きな人のためだったのだろう。
 啓太はおそらく、本当に馬鹿みたいに頑張っていたに違いない。

 だがそんな啓太を、ある出来事が襲った。

 生活し始めて数ヶ月後。
 仕事が忙しく、たまに泊まりがけとなって家に帰ることが出来ない日もあったらしいわけなのだが、その日は予定と違い早く家に帰ることができたようなので、疲れ果て少々フラフラしていたものの、だがそれらに満足していた啓太は、幸せを感じつつも帰宅した。

 そう、帰宅した。

 そして出迎えたのは、見知らぬ男の靴と、最愛の女性である者の喘ぎ声である。

「夢だと思った」

 語る啓太は、笑っているのか泣いているのか、不思議な表情で首を横に振った。

「でもほんとだった。心臓が馬鹿みたいな音で鳴ってた。視界が本当に歪んだよ」

 そしてゆっくりとリビングへと進んだ。夢だと信じて、違うのだと信じて。
 だが、だが、そう祈って戸を開けた啓太の視界に映った事実は、最悪のものだったのだ。
 自分が信じた女性、決意した理由。
 その象徴とも言える家。
 彼女と将来を語らった部屋が、何の意味もない場所へと変化した瞬間だった。

「相手の男は僕を知らないみたいだった。土下座されたんだ。すいませんでしたってさ」

 だが彼女は、

「ただごめんなさい、と謝っていた。本当にただそれだけ」

 そう語る啓太は、すべてを諦めてしまったかのようだった。

「それから『寂しかった』『ごめんなさい』とだけひたすら言われてさ。でもよくよく調べてみたら、僕と付き合う前から関係があったみたいで……それってあれじゃないか、つまりあいつが間男なんじゃなくて、僕が間男だったってことだったんじゃないか」

 啓太は、よりを戻したいと願う彼女に断りを入れ、その地を去ることにしたわけだ。
 食事が喉を通らないほどの有様だったようで、会社の方もそれらを察したのだろう。退職届を出しても、特に何も揉めることはなかったらしい。
 住宅は解約。その彼女は実家へと帰ることになったそうだ。

「情けない話だよ。意気揚々と女のところへ行って、失敗して、帰ってきたんだぜ? 本当に馬鹿みたいで」

 そう言う啓太は、くしゃりと顔を歪ませた。

「僕は悔して悔しくて……悔しくてさあ。僕、頑張ったのになあ。ダメだったなあ」

 言葉を吐く度に、啓太の瞳から涙が溢れていたのを見た。
 目をごしごしと擦り、それでも溢れる涙は、仕方のないことだった。

 それらの出来事は、いったいどれほど辛くて、惨めで、苦しい気持ちになったのだろう。
 家族も友達も思い出も何もかも、それらを故郷に置いてきて、好きになった彼女のためにと決意し、そんな啓太の安息の場所とも言えるその家で、不貞が行われ、さらにはそれを目撃したその心情。
 それはもう、想像すら超えている。
 完全に終わってしまっている。
 心が壊れてしまっても、砕けてしまっても、致し方ないほどの衝撃であったに違いない。
 自分の命を、人生を、金を、すべてを掛けたその尊い思いは、僅か数ヶ月で無に帰されたのだった。



「これからどうする」
 店を出て、冷たい夜風を受けながら、俺は啓太に聞いた。
「仕事探して、なんとか頑張ってみるよ。全てはそれからかな」
「……ゲームはやらないのか」
「しないよ」
 啓太は笑い、言葉を続ける。
「あの子さ、今はもう別の男と一緒に遊んでるんだってさ。笑っちゃうよな」
 そう言う啓太に、俺はもうかける言葉が見当たらなかった。
「だから、まずは仕事を見つけて、全部それから、かな」
「そうか」
 頑張れよ、なんて言えなかった。
 だって、もう啓太は十分すぎるほど頑張っていた。頑張りすぎていた。その結果が、これなのだ。
「たっちゃん、話を聞いてくれてありがとう。また今度、良かったらまた一杯呑もう」
「ああ、頼むから無理すんなよ。また今度な」
 じゃあな、と手を上げて、啓太は背中を向け、駅へと歩いて行く。 
 誠実に、優しく、頑張った男の背中とは思えないほど、それは寂しそうで、それ以上声をかける勇気は俺にはなかった。
 遠ざかる啓太をただ見ることしか出来ない己の未熟さ、愚かさ、浅ましさが、悔しかった。
 
 こうして、惚れた女性の為にと決意して出て行った啓太は、まるでぼろぼろの雑巾のようなまま、故郷へと帰ってきたのであった。



















 しかし、それでは終わらない。
 この話にはまだ続きがある。
 ご存じの方もいるだろうが、昔からあることわざで『捨てる神あれば拾う神あり』というものがある。
 まさにそれだ。
 捨てる奴がいるならば、それを拾うやつがいる。
 縁というのは、本当に不思議なものなのだ。


















 それから約一年ほど経ったある日、啓太からメールが届いた。
 その内容は、時間があるならご飯でも一緒にどうだろうか、という誘いのものだ。
 俺はもちろんOKを出した。断る理由なんてあるはずもない。
 何より、ここ最近全く話してなかった友達からの誘いであったし、心配していた啓太が相手なのだから当然だろう。

 そして夜、以前会った駅前に行くと、そこにはもう啓太が待っていた。
 だがそこに立っていたのは、前に見た、まるで何もかもを諦めたかのような啓太ではなく、昔見た、明るくて優しそうな顔をした啓太がいた。
 俺を見つけた啓太は笑いながら手を上げる。

「ひさしぶり! 元気にしてた?」
「もちろん元気だよ。そっちも元気そうでよかったよ」

 俺がそう言うと、啓太は困ったように笑う。

「あのときは色々迷惑かけたね。話も聞いてもらって」
「そんなことないよ。ほら、店行こうぜ」
 
 そう行って俺たちは歩き出す。
 あのとき、いつ倒れてしまうのか心配になってしまうような啓太はもうどこにもいない。
 しっかりとした足取りで進む男が、そこにいた。

 以前入った居酒屋へと入り注文を済ませる。
 そして軽く近況報告をしつつ、互いにあった出来事を語らった。
 ちなみに仕事は無事見つかったらしく、今はしっかりとそこで働かせてもらっているらしい。
 しばらくの間は、何もかもが色褪せて見えて、つまらなくて、信じられず、大変だったようだ。
 だが今は、

「僕、結婚することになったんだ」

 危うく食べていた枝豆を啓太の顔面に吹き出すところだった。
 
「―――け、結婚? 誰と? いつ?」

 鳩がバズーカ食らったような顔をしていたかもしれない。
 そんな俺の様子がおかしかったのか、啓太は笑って答えた。

「昔勤めてた会社の子なんだけどね。すごくいい子でさ。再来月ぐらいを予定しているよ」

 そう言った啓太は、とても嬉しそうで、以前ここで話した時の啓太がまるで嘘のようだった。

「おめでとう! 良かったじゃないか! というかどんな子なんだ? お前がこのタイミングで結婚したいって、けっこう凄いことだと思うんだけど」
「うーん、あの件があって以来、僕はなんか女の人が怖くて、あんまり近づきたくなかったんだけど、その子だけは何故か嫌じゃなくて、ちょっとずつ仲良くなって、この前告白されたんだ」

 なんとまあ、いや啓太はカッコイイ男だし、惚れる女性がいても別におかしくはないのだけれど、いったいどんな風に口説いていったのか気になって仕方ない。

「なるほどね……でもよかったなホント。そういう女性が見つかったなら」
「もう、一生一人でいいやって思ってたよ僕は」
「そりゃあんなことが起きればな」
 
 そう言って笑った。
 過去は過去だと。

「んじゃ祝杯だな。おめでとう、かんぱーい!」
「かんぱーい! ありがとう!」

 元気よく、ジョッキのぶつかる音が、店内に響いた。


















 

「最初は、冗談かと思ったわよ」

 さて、これは更なる後日談となる。
 とあるカフェの一角で、ある女性がカフェラテを片手にそう言った。

「人がせっかく元気よく背中を押してやったってのに、死んだような顔して帰ってきてるんだもの。驚いたわ」

 そう語る女性は、啓太と結婚を予定している人だ。名前は秋という。
 そして、俺は心当たりがあった。

「あの、もしかして啓太を後押しした会社の人って、秋さんのことだったんですか?」
「そうね、きっとそれは私のことよ」

 そう、つまりそういうことだったのだ。
 秋さんは昔から啓太のことが好きだったが、その啓太には気になる人がいるであろうことを勘付いていたようで、遠目に見ているだけだったらしい。ただの片思いとして。
 そしてそんな彼が、惚れた女性と共に暮らす為に会社を辞め、引っ越すかどうかを思い悩んでいた。
 今更な情報だが、啓太の年齢は25歳で、秋さんは28歳、その遠くに住んでいる女性は31歳である。だからこそ早く行動した方がいいのを秋さんはわかっていた。
 だから、秋さんは背中を押したのだ。好きならやってみろ。頑張ってみろ。応援してやると。たとえネットゲームでの出会いであっても、私は反対しないのだと。

 そして啓太が引っ越してから、秋さんも転職をしたようで、中々苦労した様子であった。
 それから仕事がかなり安定し、軌道に乗ったと思われる頃に、啓太が最近地元に戻ってきたらしいことを、彼女は耳に挟んだらしい。
 何があったのだろうと連絡をしてみたところ、彼女と上手くいかなかったから帰ってきてしまったのだと言われたそうだ。
 とはいえ秋さんもさすがに察したようで、その様子から尋常ではないことがあったのだとわかったのだとか。
 そして、元気を出して欲しいという思いを込めて、当時の同期を呼んだりして飲み会を開いたそうなのだが、久々に見た啓太はまるで見る影もない、常に下を見て歩いているかのような、酷い様子であった。
 秋さんは啓太を元気づけたいのもあり、隣に座ってあれやこれやと話題を振って話をしていたらしいのだが、そのとき偶然置いてあったテレビに啓太がハマっていたネットゲームのCMが映っていたらしく、啓太はまるで懐かしむかのようにそのCMをじっと見つめていたらしい。
 それを見た秋さんは咄嗟に、

「実は私最近パソコン買ってさ! 啓太がやってたゲームってのをやってみたいと思ってたんだよね。良かったら私に色々教えてくれない?」
 
 そう言われた啓太は、少し苦虫を噛み潰したような顔をしたものの、

「僕、ちょっとキャラ消えちゃったから同じく最初からになっちゃうけど……それでもいいなら」

 と答えてくれたそうだ。

 ちなみにその後、秋さんは大急ぎでパソコンショップに向かい、さらには十二万近いパソコンを買い(明らかにオーバースペック品)、というか明らかに店員に買わされたっぽいわけなのだが、それを家に持って帰って弟に設定させたらしい。なんとも涙ぐましい行動である。
 
 そしてそれから、秋さんは自分なりに色々調べたりしつつ、啓太と一緒にネトゲをして遊んでいたらしい。忙しくて時間が取れないことが多かったが、無理やり時間を空けてやっていたそうだ。
 余談だが、話によると他には一切フレンドを作らず、ただただ啓太とだけ一緒に遊んだそうだ。
 
 そしてある日、パソコンの調子が悪いかもしれないという話を啓太にしたら、休みの日にパソコンを見に来てくれるという話になり、そこでご飯をごちそうするという、秋さんにとってはアルティメット級のイベントが発生したそうな。

 そんなこんなで当日、パソコンの設定やらなんやらが全て済んだ後、お茶を飲みながら部屋で雑談をしていたそうなのだが、そこでなんと啓太がスイッチを踏んでしまったのである。

『そういえば秋さん、いつも僕と遊んでくれているけれど、好きな人との仲はどうなの? 昔いるって話してたよね』

 と、中途半端に鈍い啓太は言ってしまったらしい。
 そして、その言葉を投げかけられた秋さんは、自分の中で何かが切れたような音がしたそうだ。

 この男は、どうして私があの会社でいつまでもアルバイトとして居たのか知らないのか。
 どんな気持ちで、頑張れよ、と背中を押したと思ってるのか。
 帰ってきた啓太をどれだけ心配したか。
 パソコンを買って弟に頭まで下げて設定してもらって。
 楽しそうにゲームの話をする啓太を、どんな気持ちで見ていたか。

 それらの気持ちが、一気に爆発したのだと秋さんは語った。
 
「そもそもさ、私は疲れきって元気のない啓太を見て、最初から思ってたの」

 そして秋さんは、その場で啓太に自分の思いをぶちまけた後、最後に、最初から思っていたことを言い放ったのだ。

『私が! あんたを幸せにしてあげる!』







「めっちゃ上から目線ですね」
「うるさいわね」

 照れたように、そっぽを向いて秋さんは言う。
 だが、この人がいたからこそ、あいつは立ち直ったのだ。立ち上がったのである。
 啓太はまた、前を向いて歩き始めたのだ。

「こんな感じかな。たつくんが知りたかったのは以上かしら」
「はい、ありがとうございました。ずっと気になっていたので、すっきりしましたよ」
「そう、ならいいわ」

 そう言って、カップに残ったカフェラテを口に運ぶ。
 そして一息して、口を開いた。

「んじゃ、私はこれぐらいで仕事に戻るわね」
 
 そう言い放ち、会計用のレシートを持って立ち上がる。

「いやいやいやいやいや話聞かせてもらったの俺ですし! 俺が払いますから!」

 そう言って立ち上がる俺に、秋さんは指を突きつけた。

「啓太が世話になったし、それに私もなんだかすっきりしたから、それのお礼よ。だからいいの」

 そう言って笑う秋さんは、なんだかとても格好良かった。

「……わかりました。ありがとうございます」
「いいのよ。また今度ね、たつくん」

 そう言って、秋さんは会計を済まし、なぜかもう一度俺を見た。

「そういえば言おうと思っていたんだけど」
「はい?」
 
 秋さんは、立っている俺の横を通り出口へと向かいつつ、まるで捨て台詞を吐くかのように囁いた。

「あなたは他人の幸せは願ってるくせに、自分の幸せは考えてない感じするわね」
「は?」

 何言ってんだコイツ、という気持ちが顔に出てたんだろうか。
 そんな俺を捨て置き、秋さんはさらに続けた。

「もっと自分のことも考えるべきよ。啓太は幸せになった――――だから、次はあなたの番かもしれないじゃない?」

 じゃあね、と手を上げて、秋さんは店を出て行った。
 全くもって意味がわからない。
 というか、どういう意味だろうか。
 俺は今、既に幸せの身なのである。
 平穏と、楽しいゲームライフを手に入れている。
 いや、まぁ考えても仕方がない。
 秋さんの言った言葉を反芻しつつ、俺は帰路についたのだった。





 さて、さらなるオチがある。
 啓太と恋人になって不貞を働いた女の件なのだが、どうやらこの数カ月後、いきなり啓太に電話をしたらしい。
 しかも内容は、

『あのときはごめんなさい。でもやっぱりわたしはあなたのことが忘れられないの』

 みたいなことをのたまっていたらしい。
 それを聞いた秋さんは烈火のごとく激怒。

『お前のようなババアは一生そうやって生きてろバーカ!』

 と怒鳴って電話を切ってやったとかなんとか。
 少しおもしろかったよ、と啓太が笑いながら、そう言っていた。












この話はフィクションですよ!
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_(:3 」∠)_

コメント

No title
へいへいへーい、おひさですよーヽ(・∀・)ノ

仲のいいフレさんの、しかも恋愛話となれば応援したくなっちゃいますなぁ(´∀`*)
その上、その人が優しくて真面目で仕事も有能となれば引く手数多だったろうし
てか、読んでて思ったけど啓太さん完璧超人か!!(;゚Д゚)!

普段の自分ならリア充爆発しろ!!ヽ(`Д´)ノと発狂するとこだが、こんないい人にそんなこと言ったり思ったり出来るはずがない(;´д`)

しかし、こんな一途な啓太さんと付き合っておいて他の男ととは・・・
いつの時代でもこういう人はいるもんなんですなぁ(´・ω・`)
しかも、啓太さんと会う前からってもう完全に男を都合のいい道具くらいにしか思ってないんじゃ

テレビやネットではよくこういう話が取り上げられるけど、実際こんな場面に遭遇したり話聞いたりしたら冷静になんていられないだろう
そもそも、思考がちゃんと働くかどうかも怪しい
自分も前に似たような話を聞いたことがあるし、その時はもう何もかもが終わった後だったから何も出来ずにいたことよりも何も知らずに生きてきた自分に腹が立って仕方なかった、どうして気付けなかったのかと
まぁ、その人は後で立ち直れたから良かったけど

しかし捨てる神あらば拾う神ありとは、てか秋さんカッコよすぎだw
そして一途すぎて文章読みながら悶えてしまったわ!!w
パソコン買いに行くくだりとか、乙女すぎてもう《゚Д゚》

そういえば、最後の秋さんの言葉の「他人の幸せは願っているのに自分の幸せのことは考えてない感じ」はなるほどなぁと思った
自分もたつさんと話してて思ってたことだけど、たつさんはフレさんやリアフレの幸せこそが自分の幸せ、みたいな感じで自分のことを一切考慮してない風に思えたから

たしかに誰かのために頑張れるのは素晴らしいことだけど、それだけだとそこに自分がいない感じでやっぱり悲しい気がする

まぁ、お前はどうなんだと突っ込まれたら終わりなんですがね!!《゚Д゚》

だけど、自分を想う人って案外近くにいたりするもんなんだなぁ
絶対自分はいても気づかないw
いや、そもそもいるかどうかが怪しい・・・・《゚Д゚》

あと、最後のフィクションですはハッタリだと信じてる!!《゚Д゚》
というわけで今回はこの辺でさらばーヽ(・∀・)ノ
No title
>まおーさああああああ!!
ぴぎゃああああああありがとうございます!!
っていうか長かったでしょうに、読んでくださってありがとうございます・・・
でもほんと色んな人がいらっしゃいますよね(´・ω・`)
とはいえ因果応報というか、いずれそういう人は痛い目見ると思っております・・・
許しませんよ、許しませんよ!!
でも楽しんでいただけたようでなによりw
世の中には本当に色んな人がいて、だからこそまおーさんを大切にしたいと思っている人もけっこうごろごろしてるわけですよ!!わかりますか!!
だから、元気出してくださいね(*´▽`)
No title
名前にあせったwそして泣けた( ;∀;)
秋さんが切れたくだりがよくわかる(*'▽')
言ったあとしばらくじてから恥ずかしかっただろうなぁw
>あきさん!

あああああきさんんんんwwww
すいません仮名がかぶりましたwwww

とはいえ色々あったようなのですが、なんだかんだで子宝にも恵まれて、今は平和にやっているようです(*´▽`)よかったです…
ジ~|д゚)
>まねーさま
ギャアアアアアア(; ・`д・´)

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